あてどなく歩き続ける脱走者

私はタクシーを使った経験はそんなにありません。理由は貧乏性なのと電車に乗ることも歩くことも好きだからでしょうか。

それなので、乗った時は時間的にか場所的にか状況的にか、とにかく自分にとってのっぴきならない状況の時なので、全てよく覚えています。その中でも一番記憶に残っているのは、田舎の寂しい住宅街でタクシーを利用した時のことです。

福祉系の大学の4年生だった私は、内定していた入所障害者施設の研修に参加していました。海に近いその施設は東京からは車で2時間ほどの場所にありました。

慣れない職場にほとほと疲れ、仕事も思い描いていたのとは全く違って、きれいごとでは出来るはずもないと1日目にして痛感しました。なんか、閉じ込められているというか息苦しさがずっとありました。もしかしたら、今くらい人生経験があれば耐えられたのかもしれませんが、当時の私にはとてもハードルが高い職場でした。

そして、宿泊所から1人で脱走したのです。まるで、刑務所から逃げるようにです。もちろん、刑務所ではないので誰もすぐには追いかけては来ませんでしたが。

そして、真夜中あてどなく歩いているとタクシーが停まったのです。タクシードライバーさんが顔をだし。「こんな時間にどうしたんですか」と呼び止めてくれました。

その時われに返った瞬間をよく覚えています。涙があふれてきて何とか「東京まで行けますか?」と声を振り絞って言うことが出来ました。

タクシードライバーさんは家に帰る途中だったようですが、東京まで逆戻りして乗せてくれました。

偶然なのですが、このタクシードライバーさんがあの時あの道にやってきてくれたこと感謝せざるをえません。タクシードライバーさんはもちろんもっと大きな存在にも感謝したほうがいいのかもとさえ思います。

若かりし日脱走までした失敗の思い出。あのタクシードライバーさんと一緒に思い出されます。